美しい人の美しいジュエリー ** 彼女がアンティークジュエリーを着ける理由 **

  電車の中吊り広告がちょっと気になって、本屋さんに直行。 気になったのはアエラの表紙。
今回の表紙を飾っているのは僕の大好きな女優グウイネス・パルトロウ。
父親が脚本家で映画監督、母親は女優という恵まれた環境に生まれた彼女は、映画 「恋に落ちたシェークスピア」や「スライディングドア」、「大いなる遺産」、「ダイヤルM」などで有名なクール・ビューティーアクトレス。昔はブラッド ピッドと婚約したこともありましたね。今は一児の母親になりました。
僕が特に印象に残っているのは、「大いなる遺産」の中で、カルバンクラインを颯爽と着こなしている美しい出で立ち。「恋に落ちたシェクスピア」の中世の衣装をまとった姿などです。
アエラの表紙の彼女の写 真に、特に眼が行ったのは、彼女が着けていたイヤリングのせいです。
遠くから見ても異彩を放つそのイヤリングが何者か、僕には分かっていました。それが間違いないか確かめるべく、僕は本屋に行ったわけです。
彼女がしていたのは、ジョージアンのローズカットダイヤモンドの ロングイヤリングでした。耳の下に垂れ下がり揺れる素敵な作品です。
リプロダクションでなければ(写真だけでは100%とは言い切れません)、かなり状態の良い魅力的なイヤリングです。
こういったものをさり気無く着けこなせるのは、さすが世界の大女優といったところでしょう。

しかし、なぜまだ三十半ばのハリウッドスターが、ジョージアンのイヤリング、なのでしょう。
それに、最近のアカデミー賞などの式典にも、アンティークジュエリーをまとった女優の姿を見ることがあります。他の人との差別化や個性を表す為、という要素もあるとは思いますが、彼女達や、欧米人にとってのアンティークジュエリーとはどんな存在なのでしょうか。


 ところで、最近は余りうるさくないようですが、一時期イギリスにに入国する際のイミグレーションはとても厳しく、入国するのに一苦労でした。
彼らは、「どんな目的で来たのか、所持金は幾らある、どこに泊まる、何時イギリスを出て行くのか」 なんてことをしつこく、ねちねち慇懃無礼に聞くのです。運が悪いと別 室でかばんの中身や、身体検査までされるというケースもありました。
イギリス国内の不況と失業、不法労働、密入国者問題などがあったからなんですね。 日本の若者がちょっと汚い格好で来ると、観光目的なのにその場で強制退去なんてことも現実にありました。(僕の知り合いも2人即日帰国命令を宣告された奴がいます)
僕はといえば、実にいい方法にある時気が付いたのです。 
それはどういうことかというと、先ずイミグレーションオフィサーに対しここに来た理由を、「アンティークジュエリーを買いに来たのだ!」と宣言するんです。
そして、「私はアンティークジュエリーディーラーで、東京にお店を持っている。今回は5〜6万ポンド位 買い付けする予定だ!」そう言い放つんです。(お店を出す前からそう言ってました)
以前は、仕事で来たと言えばいろいろ聞かれて厄介だから、「観光で1週間で帰ります。どうか入れてください、お願いします」みたいな感じだったのです。
ある時、アンティークディーラーと言うと相手の態度が何か違うな、と感じたのです。
それからは、この手を使っていとも簡単に入国できるようになリました。良いも悪いも、イギリスには階層みたいなのが今でも歴然と残っていて、住むエリアや日常の買い物をする場所、読む新聞まで、それぞれに自然と差別 化されている部分があるんですね。

 ある時、僕よりも15歳くらい年配のイギリス人の女性に(彼女は両親ともイギリス人で、白人社会で教育を受けた、ごく普通 のいわゆる中産階級のイギリス人女性です)
「今日からウエッジウッドのセールが始まったね、見に行こうか?」 と聞いたんです。
しかし返ってきた答えは 「あれは私の使う食器ではないわ。」というもので、「ん?」っと思ってると 「別に買えないわけではないが、日常にウエッジウッドは使ったことが無いし、興味が無い。」 とのことなのです。 
私達が使う食器類は他にあるという雰囲気です。
日本のように、お金があれば何歳であってもどんな所にも出入りし、どんな物でも買い、どんな物でも身に付けるという感覚は彼らには無いようです。
どっちが良いとは言えませんが、実際に日本以外の先進国ではそんなところがある気がします。
ですから、イミグレーションで僕がアンティークディーラーだと告げると、何かちょっと、「へっ、そうなのかい、あんたはそっちですか、はいはい ではどうぞ」みたいな、まあ勝手にやってくださいと、いった感じになるのです。
僕はけしてそっちの世界の人間ではありませんが、それをうまく逆手に取って、いつも簡単に入国していたのです。

  おそらくパルトロウやハリウッドの女優達は、その辺に通じる感覚があるのでしょう。
「このジュエリーは私達の世界の物なのよ」と、いうような感じす。
そして、彼女達がアンティークジュエリーを身に着ける理由がもう一つあるのではないかと僕は思うのです。
それは、アンティークジュエリーが放つ歴史と文化を感じさせる輝き、そこから醸し出すロイヤルな美しさは、知性と教養の象徴でもあります。
「これが何か、お分かりかしら?」といった感じでしょう。
お金も名声も得た彼女達が、望んでも中々手に入れられない最後の欲求・・・それは、知性に他ありません。
僕は、鼻の利く彼女達が、知性の部分を満たす対価として、アンティークジュエリーを選んでいる気がするのです。

2005年1月17日 T. Kuroiwa