ホームページをご覧頂いた皆さまから、このエナメルのモチーフについての情報を頂きました。出会ったことのない不思議な絵のモチーフとエナメル装飾なので、資料が見あたらず困っていたのです。
このモチーフについては聖母マリアを描いた物だとは想像していましたが、非常に、ある特定の民族的な表現で描かれている感じがしたので、その辺が分かればいいかなと思いお尋ねしたわけです。

 ”ヨーロッパの歴史、文化はキリスト教の基礎の上に出来上がってきた”

この基本的な事に対する知識不足ために、今回は大変なことになってしまいました。 少しずつ調べていくうちに、時代によって変化して行くキリスト教各会派の教義的解釈の違い、キリスト教美術の解釈(神学的表現、図象による象徴表現など)など、 知らないことばかりで苦労しました。
結局本当に理解できたわけでもなく、この解説も不十分に思われますが、分かる範囲で説明してみたいと思います。なお、奥深いキリスト教の教義、美術上の論点などを詳細に論じることは不可能なので、 ここでは分かり易く常識的な解釈で説明させていただきます。

多くの方からお寄せいただいた見解及び、僕なりに調べてみた結果 、 このモチーフは 「無原罪の御宿り」と呼ばれるものであると思います。
通常、マリア様を描く場合には五つの形態があります。1.無原罪の御宿り型、2.永眠後の被昇天型、3.天国の女王としての戴冠型、4.慈悲の聖母としてのご出現型、5.とりなしのマリア型。 
各パターンには、それぞれの見分けやすい特徴がありますが、ここでは「無原罪の御宿り」の意味と描かれ方の特徴について説明します。

「無原罪の御宿り」
「無原罪の御宿り」とは、聖母マリアの母アンナがマリアを身ごもり生んだこと、それは生まれる以前からマリアが神に選ばれ (原罪を逃れているという意味)無垢であったということです。
中世の神学者の意見によれば、マリアの無原罪の御宿りは ヨアキム(マリアの父)とアンナの口づけ【黄金の門の口づけ】で完成した、ということです。
中世の終わりごろに、新しいタイプの図象が現れます。 地上に降り立つ「無原罪の処女のマリア」、三日月や原罰の蛇が取り巻く地球の上に立ち、星の冠を戴き、両手を胸前で合わせ、天使達が称えるといった描かれ方がされるようになります。 
このエナメルのペンダントのモチーフも、上弦の月の上に手を合わせたマリアが描かれています。 ただ、マトリューシュカを思わせる出で立ち、頭の上にSIと刻まれた王冠のようなものを載せている姿など、謎のままで、制作国、年代などまだ判別できずにいます。
東ヨーロッパ、ロシアなどの雰囲気が漂うように思いますが如何でしょうか?
シルバーギルド製で、シルバーを表す900の刻印(という事はロシア製では無い) と18の刻印(何を表すか不明)、ほかに判別できませんが何か刻印が一つあります。
この辺の事がお分かりの方がいらしたら教えてください。 僕も引き続き追求してみたいと思います。
今回は、ジュエリーの歴史とは少し違う部分でとても勉強になりました。

** 貴重な情報をお寄せ頂いた沢山の皆さま、この場を借りて御礼申し上げます **



2005年5月27日 T.Kuroiwa



(背景画: ムリリヨ作 無原罪の御宿り )