車窓・束の間のひと時

パリからロンドンに帰るユーロスターの車中です。昨日人差し指の先端を切ってしまい、キーボードをたたくたびにキリキリと痛みます。ちょっと不自由な思いをしながらこの原稿を書いています。
パリからロンドンに帰るという表現は、日本からロンドンに、ロンドンからパリに、そしてパリからまたロンドンに戻り日本に帰るというのが、僕の最近のもっぱらのルートだからなのです。
パリで仕事を終え、西に日が傾きかけた車窓からフランスの田園風景をビール片手にゆっくり眺めるのは、旅の途中に訪れる束の間の安堵感と、そしてパリでの仕事が上手く行っていれば至福の充実感を味わうひと時になるのです。
夕方のパリからロンドンへの列車は進行方向に向かって左側から強い西日を受けることになるのですが、この季節は天気の移り変わりが激しく、今日は龍が横たわるような帯状の雨雲が列車と平行に流れ、東側の窓に見える晴れた牧草地の中に、それはそれは美しい虹が描き出されています。
始まりと終わりがクリアーに見える、つまり半円の虹がしっかり全て見渡せる光景は日本で僕は見たことがありません。
そして、ここまで色がとても強く鮮やかにくっきりと現れている虹も(まさしく絵の具で描くレインボカラーといったところですが)日本では見たことがない気がします。
たまには、別の方向に二つの虹が見えたり、一つの虹の上にもう一つ大きな虹が取り巻いたダブルアーチに遭遇したこともありました。これには驚きましたが、そのダブルアーチを飛行機がクロスした時はちょっとした映画を見ているような感動的なシーンでした。
美しい光景に見入ってしまうと同時に、愚かなことに私は毎回「あの虹の麓にいったらどんなだろう?」と、体が虹色になってUFOに連れて行かれる自分を想像しながらわくわくします。馬鹿だと笑わないで下さいね!
毎回と書いたのは、そう、本当に良くこのユーロスターのロンドンへの帰り道では虹を見るのです。おそらく世界でも屈指の美しい虹が出現するエリアだと僕は密かにふんでいます。もしかしたら、何処かに [ここは世界で最も美しい虹が世界で一番沢山現れる場所です。イングランドに入ったらこんなにトレヴィアンな虹は見られません!] みたいなサインボードがあるかもれません。たぶん無いと思いますが。。。。。。

龍が去った空はやがて東の空からゆっくりと透明な漆黒が押し寄せ、黙々とした黒い雲と重なるように完璧な暗い闇に変わっていくのです。
気が付けば”チャネルトンネルにまもなく入ります”と、フランス語とフランス訛りの英語のハウリングして聞き辛いインフォメーションが流れ、列車は20分後にはドーバー海峡の下を通り抜け、イングランドの地にひょっこりと顔を出すのです。
オレンジ色の優しく輝くライトが闇間に点々とする光景を見ると、故郷に帰ったときの懐かしさに似た安堵感に満たされて来るのです。
今はパリ⇔ロンドンは片道2時間15分というスピードで移動することができます。幻想的な光景を体感することが出来れば、まさしくあっという間に過ぎてしまう行程です。 

書き添えておきますが、フランスとイギリスの田園風景は同じ様な牧草地帯が続いているのですが、似ているようでとても違うのです。
どこがどう違うのかは、どうか皆さんこの地を訪れて美しい虹とともに車窓から感じてみてください。 

2008年3月9日、17:48 パリ 南駅から、ロンドン セント・パンクラス行きのユーロースターにて