ロンドンの思い出 その1   「 オー マイ ガッド !! 」

ボンドストリート ロンドンのボンドストリート  Bond Street には世界中のブランドショップが軒を連ね、オークション会社のササビーズや最高級の画廊やアンティークショップが何件もあります。
中には19世紀から続いている由緒正しき名門の王室御用達店で、顧客に貴族が名を連ねている、威厳に満ちた近寄りがたいお店が少なくありません。
ちょっと日本人にはわかりづらいのですが、イギリスにおけるアート&アンティークの世界は、自分達の仲間しか受け入れないみたいな雰囲気が何処かに漂っています。
僕はその昔、そういったすごいお店に何も知らずに飛びこんで行って、ずいぶん恥じ知らずなことを沢山して来たんだと思います。
何も知らないってすごい! ですから今の方が緊張してそういったお店に足を踏み入れています。
さて、ボンドストリートの並びに  Ryder Street という通 りがあって、ある日僕はそこのお気に入りの画廊に絵を見に行ったんです。
 PETER NAHUM という画廊で、ラファエロ前派の作品を多く扱うことで有名なところです。 この絵を見たいと言う訳ではなく、何かあるかなと、ふらっと入ってみたんです。
通りに向かって4枚ほどの絵が飾られ、ショーウインドー越しにそれらを眺めてから、左端の入り口を開け店に入っていきました。
高い壁一面に数千万円の油絵の大作から、数十万円のデッサン画の小品まで、何枚もの作品が飾られています。 その耽美的で神話の中のような絵の世界に、思わず僕は引きずり込まれていくような思いがしていました。
そのくせ買える訳でもないのに、なめられてはいけないと背筋を伸ばして、いかにも絵が分かるような顔をしてうなずいてみたり、ため息をついたりなんかして眺めていたんだと思います。
一通り見て周り、暫くして何の気なしにクルリと体を回して、ウインドーに向かって飾ってある絵のほうに眼をやったんです。当然それらの絵の裏側を見ることになるのですが、眼に飛び込んできたのは、外のウインドー越しにこっちを向いて絵を覗きこんでいる人物で、僕はその姿に釘付けになたのです。
(眼が合った気がしたけど、おそらく思い込みですね。でも眼が合った絶対に!)
その時、僕の頭の中で発した言葉は 「ポッポッポッ、ポール、だー!!!」
生まれてこの方、後にも先にも頭が真っ白になって、体が硬直して動かなくなり、声がでなかったのはこの時だけです。
頭の中がスパークして何かが弾けてしまいました。
何と何と、ほんの1メートル余り先に、あの、あの偉大なポール・マッカートニー様がこっちを見ているではありませんか。
本当にパニックに陥った僕は、一歩も足を踏み出すことが出来なくて、声もまともに出なくなり、立ち去って行くポールを追いかけて、サインしてもらったり、握手を求めたり、愛していると伝えたり・・・・とにかく何にも出来ませんでした。(悲しい! )その時は興奮してパニックに陥ってしまって、なんて残念なことをしたのかと悔やみましたが、後の祭りです。
今では、「この広い世界でほんの一瞬、あのポールと同じ時間、同じ場所に偶然にいたなんて、なんてすごいんだろー。俺とポールには何か運命的なものがあるんだ、きっと」と自分に言い聞かせ、一人納得してます。
その数ヵ月後、ポールのコンサートがウエンブリーであったのでに聴きに行ったんです。
ビートルズの名曲 Yesterday をポールが歌い、本当に鳥肌が立ちました。感動!すばらしい! 
今では新しい奥さんと結婚して、還暦を過ぎすっかり年をとってしまいましたが、数々の名曲たちはまったく色褪せる事はありません。
それどころか、次々に新しい世代の心を捉へ、名曲達が受け継がれていき、そして人々に変わらない感動を与えています。
まさしく普遍的な美しさ・・・アンティークジュエリーと同じですね。
      1991年頃の想い出、  Yesterday・・・・・・ 
・・・・・・ でもあの時一緒にいた連れの女性はリンダじゃなかったよなー。

 【次回は、ボンドストリートで見かけた今は亡きあの人 English Rose】
2004.11.11 kuroiwa